(このエントリーは以前、別なブログに投稿したものを手直しして再掲したものです)
いつの頃からか私の本棚にはボロボロの本が多く収まっています。何度も読んでボロボロになった本もありますが、私の手元にたどり着いたときにすでにボロボロになっている本も沢山ありました。そういう本の中からこの一冊を。
★「反逆から様式へ イギリス・ポップ芸術論」ジョージ・メリー 訳・三井徹 音楽之友社 1973年

この本の著者、ジョージ・メリーという人はリヴァプール生まれのトラッド・ジャズとブルーズのシンガーであり、シュールレアリズムを中心に扱う画廊で働き、新聞に連載されているコミックの台詞のライターであり、雑誌でTV・映画の評論もしていたという面白い人です(YouTubeで素敵な歌声をいくつか見つけました)。
この本ではまず「序章」として28頁にわたりイギリスにおけるポップ文化の定義を試みた後、音楽、美術・ファッション、映画・TV・ラジオ・演劇、言語・文学・ジャーナリズムの各分野について考察していきます。と、書くと非常に頭の固いつまらない論文みたいに思えますが実際には、例えば第一章の「イギリスのポップ音楽」ではロックンロール登場前後のイギリスのシーンについて、例えばトラッドブームへの貴重な言及があったり、リヴァプール人としてビートルズの成長を見つめたり。
...ビートルズは、ただディランの例にならって、自分たちの音楽の源泉として自分たち自身の記憶と感情をよりどころにしたということであった。しかし、彼らが顔を向けたのは自分たち自身の過去であった。ジェイムズ・ジョイスが、自分が逃げ出したところのダブリンを再構築したの同じように、ビートルズは自分たち自身の、無名の子供時代のリヴァプールを再建したのだ。<エリナ・リグビー>の想像力に富んだ描写が間違いの無いものだということをぼくは証明できる。すすで黒くなっている砂岩で作られたカトリックの大きな教会があって、そのそばを市内電車が走り、レースのカーテンが見え、みがき石でみがかれた踏段がついている赤れんがの家が並び、カナリアを飼い、ちょっとした仕立て物をし、お祈りをしている、しわのよった顔の未婚の老女 —「あの孤独な人たち」—。(P135〜136)ロンドンでの初期R&Bシーンを的確に記録し、そのジャズとブルーズとソウルの混沌から生まれて来たローリング・ストーンズ、ミック・ジャガーのカリスマ性を鋭く記したり、時にはスィンギング・ロンドンのクラブやディスコティークを皮肉まじりに取材したり(この部分は当時の空気を知る事が出来て非常に貴重です)、前衛的ポップとして登場して来たフーとムーヴを経て、1967年の「フラワーパワー」から翌年68年のブルーズ、ロックンロール復権までを鮮やかに記しています。そしてとても興味深いのですが、この時点で既にスキンヘッズの登場が記録されています。
さらに他の章でも、例えば美術ではこの時期に美術史において写真の持つ役割の変化が確かにあった事をが語られ、ファッションではモッズとロッカーズが、TVでは今では伝説の「レディ・ステディ・ゴー」が、ラジオでは海賊放送とBBCの関わり方、そして同時代の人ならではのラジオのDJの果たした役割について等々、印象深い事が語られます。
もう、カバーも無く表紙もボロボロで背表紙のタイトルも読めない程に傷んでいる一冊ですが、この本のガイドのおかげで「なんとなく」ではありますが、歴史上稀に見る10年間についてかなりの事を学びました。
復刊...、無いだろうなぁ。電子本でもいいから出して欲しい一冊です(原書はKindle化されているのですが...)。
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