三月某日の夢



その中古レコード屋は自分が昔住んでいた所の近所のようだった。結構遠いんだな、と思いながらそこへ向かって歩いていた。
大きめのコンビニエンスストアを改装した様な感じの店内にはレコードはもちろん、古本や雑貨等もあって面白そうだ。店内には数組の馴染客と思われるグループが集まってそれぞれ雑談をしていたり、のんびりと商品を眺めていた。



面白そうな会話が交錯する中、「このお店の常連になりたいな」等と考えてレコードや本を眺めている自分は何故か十代の男の子で半ズボンを履いていた。
奥まで入った所で、自分と同じ様に独りでレコード棚の所に立っていた大きな若い白人と目が合うと、彼は自分に向かって手招きするようなジェスチャをした。
いぶかしく思いながらも傍に行くと彼はニヤリと笑い、手に隠し持つようにしていた何かの道具を自分だけに見えるように出した。それはレコードプレイヤーのアームの部分の様な金属製の物だが、先端は小さな三角になっており、自分はとても小さな彫刻刀の尖端を思い浮かべた。
彼は自分がそれを見つめているのを確かめると、相変わらずのニヤニヤ笑いのまま、大げさな素振りで手近にあったピクチャー盤のサントラのLPにそれで傷をつけた。
「no! stop it!」
無理やり英語を思い出しながら、必死に小声で止めようとすると、彼は小柄な自分の頭を抱え込むようにして押さえ込み、頬にそれを突き立てて、えぐった。痛みは感じなかった。
「助けて!誰か助けて!」
自分ではもうどうにも出来ず、声を上げると店主や他のお客がこちらに駆け寄ってくる気配がして、その男は自分を解放して店の外へ逃げていった。
「大丈夫かい?」と、声をかけてくれたのは中年というよりは初老であろう太り気味の眼鏡をかけた愉快そうな人物で、たぶん彼が店主なのだろう。
「傷はちょっとだけだから大丈夫だね」と自分の顔を覗き込みながら言い、すぐに先ほどの男が傷を付けたレコード盤の方へ向き直り
「あぁ、これ、とても珍しいものなのに!」と悲嘆にくれる演技めいた声で叫んだ。が、不思議な事にそれは自分を安心させてくれようとする彼の心配りに思えて、それまでの緊張感が解け、この愉快そうな小男が好きになった。


帰りしなに店主の奥さんと思われる若い女性が
「怖かったでしょう、これ、あげる」
と、細い毛糸で編んだ綺麗な靴下をくれた。たぶん彼女が作ったものだろう。
自分は黙ったまま受け取り、頭を深く下げて素直に感謝を伝えた



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